(カトリック新聞2020年6月7日号掲載)
日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」への人権侵害を考えるシリーズ第6回は、クルド人難民に関わって15年になるフリーライターの織田朝日さんの取り組み。及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」への人権侵害を考えるシリーズ第6回は、クルド人難民に関わって15年になるフリーライターの織田朝日さんの取り組み。
外国人支援団体「編む夢企画」を主宰する織田さんは、東京都港区にある東京出入国在留管理局(以下・東京入管)など、入管収容施設にいる外国人への面会活動を行うほか、日本で難民認定申請中のクルド人らの支援に尽力している。
織田さんは昨秋、『となりの難民 日本が認めない99%の人たちのSOS』を出版したが、この中で自身が出会った「非正規滞在の外国人」たちの実例を挙げながら、日本の入管制度や難民制度の問題点を指摘している。入管収容施設というと、「外国人専用の刑務所」と勘違いしている人が多いが、織田さんはこう説明する。
「(入管収容施設は)在留資格のない人、または在留資格を取り上げられてしまった人たちが裁判もなく、突然、収容されてしまう所です。2016年頃から、入管がビザのない難民認定申請者を収容したり、また難民認定申請者が持っている在留資格(特定活動)を取り上げて収容したりするケースが増えていきました。また引っ越しの際の住所変更の届け出が遅れたなど、ささいなことでも違反と見なし、問答無用に収容しています」
中でも織田さんが関わりの深い在日クルド人たちは、少数民族として迫害を受け、トルコなどの母国を追われたため、日本に保護を求めてやって来た。しかし、諸外国では多くのクルド人が難民認定されているものの、日本で難民認定されたトルコ国籍のクルド人は一人もいないのだ。そのため大勢の在日クルド人が「非正規滞在」となっている。
在留資格のない子どもの未来
織田さんは著書の中で、6歳で来日し、日本で育ったクルド人女性ベリワンの身に起きた出来事を通して、彼らの窮状を紹介する。ベリワンの父親は、母国トルコで民族差別を受け、日本で何度も難民認定申請をするが、難民と認めてもらえなかった。ベリワン一家は日本で在留資格がもらえないものの、迫害の恐れがある母国にも帰れず、日本で「非正規滞在」となってしまったのだ。
2006年、ベリワンが小学生の時、父親は入管に収容されてしまう。ベリワンは入管職員に「お父さんを返せ!」と猛抗議。その後、父親は「仮放免」(入管収容施設外での生活を認める制度)許可を得て、家族の元に戻ってくるが、「仮放免」の間は就労が禁止され、国民健康保険にも加入できず、入管の許可がないと住所地がある都道府県を出ることもできない。
親が「仮放免」であれば、子どもも自動的に「仮放免」となる。ベリワンは自分の将来を真剣に考え、高校に進学したにもかかわらず、2年生で中退。その理由を織田さんはこう話す。
「ベリワンは『仮放免』の延長手続きで入管に行った時、職員から『高校に行っても、仮放免のあなたには意味がない』と心無い言葉をかけられました。日本でどんなに優秀な成績を残しても、大学を卒業したとしても、在留資格のない人は、日本で働くことが禁止されています。夢を持つことができません。入管職員はそのことについて、意地悪を言ったわけです」
ベリワンはもともと勉強が好きだったが、その出来事をきっかけに、不登校になり退学。荒れていた時期もあり、後にパニック障害を発症。そうした苦難に直面しながらも、同じ境遇の若者と出会い結婚を決意するが、その矢先に東京入管から呼び出しがあり、ベリワンは収容されてしまう。
入管は、日本で生まれ育った「仮放免」の子どもたちを、20歳になった途端に収容することがある。また、「仮放免」の子どもに在留資格を与える代わりに、その親を母国に強制送還して親子を引き離すこともあるという。
人権侵害に必ず声を上げる
ベリワンの収容に激怒した織田さんは、ベリワンを解放するためにSNSで一般市民に入管への抗議活動を呼び掛けた。またオンラインによる署名活動も実施。3カ月に及ぶベリワンの救出作戦によって、やっと解放に成功するのだった。
織田さんの活動の特徴は、「声を上げる」ことだ。入管で人権侵害が起きれば、職員に抗議するので、入管から嫌がらせを受けることもある。SNSで入管の実態を書き続けている織田さんに対して、法務省から電話があり、投稿を削除するように言われたこともある。こうした抗議活動や被収容者への面会活動のほかに、織田さんは、クルド人の子どもたちに演劇を教えている。子どもたちの体験を基に脚本を書き、子どもたち自身に演じさせて自尊感情を高める活動だ。また交流イベントや、難民をテーマにした写真展も開いて、情報の発信を続けている。
コロナ禍で事件
織田さんのスマホには、絶えず入管収容施設内にいる被収容者からSOSの電話がかかってくる。コロナ禍の今年4月下旬、被収容者から耳を疑うような電話があった。
東京入管の収容施設「女性ブロック」も、いわゆる「3密」(密閉・密接・密集)状態が続いている。発熱した被収容者や、せきを頻発する被収容者と一緒に生活することへの不安と恐怖を感じた女性たちが、4月25日、自由時間の終了後に帰室を拒否し、「私たちに自由を」と英語で書いた紙を見せて、収容施設から出してほしいと静かに訴えたのだ。
すると警棒を持った約20人の男性警備官が女性たちに暴力を加えて制圧。けがをした女性、もみ合う中でスカートが脱げて下着姿で体を触られた女性、「仮放免」許可を取り下げられた女性も出た。
この事件について「難民問題に関する議員懇談会」は5月13日、東京の参議院議員会館で入管の警備課長らに対して「入管施設内における新型コロナ対策の実態及び警備官による女性被収容者への暴力事案等に関する省庁ヒアリング」を行った。会場に駆け付けた織田さんは「入管は暴力と認識していないと言うが、あざが残っている女性もいる。首を絞められたという女性もいる」などと、警備課長に質問と猛抗議をした。
しかし、警備課長はのらりくらりとはぐらかすばかりだった。織田さんは差別と闘う大切さをこう話す。
「これは私たち自身の問題です。外国人やホームレスなど、社会の〝最も弱い立場〟にいる人たちへの攻撃が終わったら、今度はフリーター、専業主婦など、次々と攻撃の対象が変わっていくだけです。この差別は食い止めなければなりません。まず、この現実を知ること。そして知ったことを発信することが大事だと感じています」