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第41回 「死因不明」の〝最終報告書〟

㊶ 「死因不明」の〝最終報告書〟
(カトリック新聞 2021年8月29日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第41回は、本連載でも度々取り上げてきたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が名古屋出入国在留管理局(以下・名古屋入管)の収容施設で死亡した事件の〝最終報告書〟について。

日本に留学生として来日したウィシュマさんが、経済的な問題など諸事情から「留学」の在留資格を失い、昨年8月に名古屋入管に収容され、今年3月6日に死亡した事件。
ウィシュマさんは収容後に体調を崩し、今年1月に入ってからは、水も薬も食べ物も嘔吐(おうと)し、脱水症状や栄養失調状態に陥っていた。しかし、名古屋入管はウィシュマさんを外部の病院に入院させることも、点滴治療も認めず、死なせてしまったのだ。
この死亡事件に関して、入管内の「調査チーム」は8月10日、内部調査によって〝最終版〟とする「調査報告書」(以下「最終報告書」)を公表。同日、上川陽子法務大臣は「命をお預かりしている収容施設の中で、尊い命が失われたことに対し、心からお詫びを申し上げます」と謝罪した。
また入管は8月12日、一人では起き上がることもできない状態にあったウィシュマさんの姿が映った名古屋入管の監視カメラ映像(以下「ビデオ映像」)の一部を、来日中のウィシュマさんの遺族(2人の妹ら)に限定して開示した。
表面上、この死亡事件は一件落着したかのように見えたが、この「最終報告書」と「ビデオ映像」の中身が、新たな問題点を浮き彫りにし、遺族や支援者、また弁護士らの怒りを買うことになったのだ。

「死因は不明」

「最終報告書」をまとめた「調査チーム」のチーム長を務めた丸山秀治(ひではる)さん(入管・出入国管理部長)は8月13日、野党議員の要請に応じて、東京・参議院議員会館で開かれた「難民問題に関する議員懇談会」(以下「難民懇」)第28回総会に出席し、「最終報告書」の概要を説明した。
その中で驚くべき点は、調査の結果、ウィシュマさんの「死因は不明」だと結論づけたことだ。そして、当時の名古屋入管の局長と次長を訓告処分に、また警備監理官ら2人を厳重注意処分にして〝幕引き〟にしたというのだ。
丸山調査チーム長は、ウィシュマさんに対する医療的対応や介助等の対応の在り方について、名古屋入管に「不十分」「不適切」な部分があったことは認めたものの、それはあくまで医療を巡る環境・組織体制の問題であり、また職員の認識不足から来る問題であると述べた。
言い換えれば、ウィシュマさんの死は、入管内の医療体制が十分に整っていないことに起因するものとしたのだ。また介護の専門ではない一部の職員に不適切な発言があったこと、通訳なしで入管職員とウィシュマさんが意思疎通を図るのが難しい場面があったこと、入管内で情報共有ができていなかったことなどを挙げたが、何が死因となったのかは特定できないと主張した。
これに関しては、入管・警備課長の岡本章さんが、次のような「最終報告書」の一部を読み上げた。
「(ウィシュマさんの)死亡については、司法解剖結果にもあるとおり、『病死』と認められるものの、詳細な死因に関しては、複数の要因が影響した可能性があり、専門医らの見解によっても、各要因が死亡に及ぼした影響の有無・程度や死亡に至った具体的な経過(機序)を特定することは困難であると言わざるを得ないとの結論に至った」
これは、ウィシュマさんを死に至らしめた原因を特定するのが困難であるから、〝誰の責任〟かも特定できないという理屈だ。
しかし、当時、ウィシュマさんを診察した外部の病院の医師は点滴治療と入院の必要性を示唆し、そのことを入管職員に伝えている。

 入管に責任はない!?

この「責任逃れ」の対応に憤った「難民懇」会長の石橋通宏(みちひろ)参議院議員(立憲民主党)と、丸山調査チーム長との間で、以下のような〝不毛なやり取り〟が続いた。
―石橋議員「ウィシュマさんは収容中に命を落とされた。つまり入管の適切な対応があれば、適切な医療対応があれば、適切な保護責任が果たされれば、『救える命』だった。そうですね?」
―丸山調査チーム長「入管の対応に問題はありました。反省すべき点、改善すべき点はありました。しかし因果関係の形では断定的に申し上げられない」
―石橋議員「死因が不明で、なぜ最終報告と言えるのですか。いろいろ言い訳めいた内容が報告書に書かれているが、ウィシュマさんは事実として命を落とされた。入管の対応が適切であれば、また医療的対応や、収容中のさまざまな処遇が適切に行われていれば、ウィシュマさんの命は救えたはずだということですよね?」
―丸山調査チーム長「対応に問題があったことは報告書に書いてある通りですが、『死因』と『入管の対応』の因果関係が明らかでない限り、入管の責任だと回答するのは難しい」
―石橋議員「ここが最大の問題です。誰も責任を取らない。そして結局、因果関係すら分からない。入管に問題があったから、ウィシュマさんは尊い命を落とされた。それを認めない限り、先に進めません。『原因も分かりません。責任も分かりません。でも改善します』って? 改善できるわけないじゃないですか!」
―丸山調査チーム長「繰り返しで恐縮でございますが、何をどうすれば命をお助けすることができたのか、明確に分からなかった」
―石橋議員「つまり、何をどうしようと、ウィシュマさんは命を落とされたと言いたいのですか? ウィシュマさんは自然に命を落とされたわけですか? 入管の対応に反省すべき点、改善すべき点があった。だからウィシュマさんは尊い命を奪われたのでしょ。まさにそれが因果関係なんじゃないですか」
―丸山調査チーム長「施設で命を落とされたことについては、私たちも申し訳なく思っております。個々の対応で、反省点、改善点はあることは事実です。しかし、どこでどのような対応ができていれば、この死を防ぐことができたのかは、特定できないので、残念ながら申し上げられない」
会場からは「入管では毎年、人が死んでるんだよ」などと大声のやじが飛んだが、丸山調査チーム長ら入管職員が、ウィシュマさんの死に対して入管に責任があることを認めることは決してなかった。

 病死でなく外因死

今年5月10日の「難民懇」第21回総会で、総合診療医の木村知(とも)医師は、ウィシュマさん死亡事件についての「中間報告書」を読んで、「先進国ではあまりにもあり得ない事件だということに尽きる」と所見を述べていたが、今回、「最終報告書」を読んで、「難民懇」に次のようなメッセージを寄せている。
「(報告書は)病死としているが、(中略)基礎疾患を有していないウィシュマさんが、病死に至るはずがない。脱水、栄養状態の悪化、貧血といった生命要因に大きな影響を与える状態を放置したことによって死亡に至らしめたことは、病死とは呼べず、一種の外因死ではないかと考えます。病死というあたかも、不可抗力的なもの、さらに本人に責任を転嫁するようなやり方に違和感を覚えざるを得ない」
「外因死」とは、病気が原因ではない死亡のことで、特に他殺や事故などによる死を指す言葉だ。
これを受け、「難民懇」事務局の石川大我(たいが)参議院議員(立憲民主党)は「まさに入管職員による虐待死だったんじゃないですか?」と入管職員に問い掛け、ウィシュマさん死亡事件を〝暴行事件〟に例えて、こう表現した。
皆でよってたかってボコボコにし、殴る蹴るの暴行を加えて殺してしまった。だけど、誰が殴った一撃が、また誰が蹴った一撃が死因になったのか、どれが決定打になったのか分からない。だから全員が無罪だという無茶苦茶な論理。「入管が主張しているのはこれと同じことなのではないのか」
入管は8月12日、ウィシュマさんの遺族に限定して、2週間分の映像を2時間に編集した「ビデオ映像」を開示した。しかし、その短縮版だけでも「ビデオ映像」の内容と「最終報告書」との食い違いが明らかになっている。

写真=入管職員に2週間分の「ビデオ映像」の開示を求める、ウィシュマさんの妹ポールニマさん

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