人道危機にある入管収容の現場から人間の尊厳の確保を求める共同声明
2019年6月24日、長崎県大村市にある入国者収容所大村入国管理センターにおいて、「サニーさん」と呼ばれる40歳代のナイジェリア人男性が亡くなった。サニーさんは、2015年11月に収容され、日本人女性との間に子どもがいた。「出国すると子どもに会えなくなる」と述べていたという。
出入国在留管理庁が今月1日に公表した調査報告書によれば、サニーさんの死因は「飢餓死」とのことである。現在の日本で、国の施設において飢餓死という事態が生じたことに、言葉を失う。
ところが、出入国在留管理庁は、従前の死亡事件と同様に、内部での調査結果を報告するにとどまっている。また、その 内容も、徹底した調査や原因の究明を行うことなく、対応に問題はなかったなどという内容に終始している[1]。
私たちは、ここに謹んで哀悼の意を表する。そして、出入国在留管理庁に対し、まずは、第三者機関による真相解明に向けた徹底的な調査を実施するよう求める。
日本においては、近年、多数の非正規滞在者が極めて長期にわたり収容され続けている。
今年6月末現在の東日本入国管理センターの被収容者316名のうち、6か月以上の被収容者が301名に上り、うち1年以上の者が279名に上る。同様に大村入国管理センターの被収容者128名のうち、6か月以上の被収容者が110名に上り、うち1年以上の者が92名に上る。収容期間が2年や3年を超える被収容者も多数含まれている[2]。
このような長期収容の背景として、入管法上、退去強制令書による収容は期限が明記されておらず、収容の要否、収容期間、仮放免の許否、再収容の要否等の判断に全く司法機関の審査が介在しておらず、行政機関内で手続が完結していることがある。
さらに指摘すべきこととして、出入国在留管理庁は、近年、仮放免に極めて厳格な態度を取るに至ったことがある。特に、法務省入国管理局平成30年2月28日付指示「被退去強制令書発付者に対する仮放免措置に係る適切な運用と動静監視強化の更なる徹底について」は、「仮放免を許可することが適当とは認められない者」として8つの類型を挙げる一方、「送還の見込みが立たない者であっても収容に耐え難い傷病者でない限り、原則、送還が可能となるまで収容を継続し送還に努める。」とした。仮放免の件数、許可の数と割合はここ数年、1160人・約46%(2016年)から822人・約26%(2017年)、523人・約17%(2018年)と激減しており、上記の出入国在留管理庁の仮放免に対する厳格な姿勢が如実に表れている。
とりわけこの指示以降、極めて長期の収容が常態化し、人道危機ともいうべき状態に至っている。
このような必要性、相当性、比例性を全く問わない収容のあり方は、「恣意的な収容」(自由権規約9条1項)であることはもちろん[3]、もはや「拷問」に該当するものであって(拷問禁止条約1条1項参照)、明確に違法である。
このことは、かかる日本の収容のあり方について国連機関から繰り返しその是正を勧告されていること[4]、他の先進国では、収容期間に期間制限を設けることが一般的であることからも明らかである。
長期収容に抗議するハンガーストライキはこれまでにも行なわれていたが、今年5月ころに始まったハンガーストライキは、このような極めて長期間にわたる収容を背景として、100名以上が参加したり、全国に所在する施設に連鎖したりするなどその規模が大きく、また、水を飲むことすら拒んだり、体重が激減したりし、移動にあたって車いすを必要とする者、正常な排泄ができなくなって紙おむつを使用する者も出るなど、大変深刻な事態となっている。
サニーさんの死亡は、このような経緯の中で起きたものであり、決して偶発的、特殊な事故として片づけられるべき問題ではない。
しかしながら、これらの事態を受けても、出入国在留管理庁は一向に態度を改めず、それどころか、ハンガーストライキの末にようやく仮放免許可を得た者に対し、2週間という通常よりも短い仮放免期間を与え、2週間後に具体的な理由の説明もなく、再収容するという行為に及んでいる。
私たちは次の被害者が出ることを大変危惧している。
出入国在留管理庁は、今年9月19日、長期収容について、有識者らが解決策を検討する収容・送還に関する専門部会を、法務大臣の私的懇談会「出入国管理政策懇談会」の中に設け、来年3月までに提言をまとめると発表した。
法務省は、出入国在留管理基本計画において、「特に濫用・誤用的申請の抑制策については、更なる対策として、再申請事由に制限を設けることや、運用の更なる見直しの対象となっていない、繰り返し申請を行うことで退去強制による送還の回避を意図する悪質な不法滞在者等には送還停止効果に一定の例外を設けること等について,法制度・運用両面から更に検討を進めていく」としている。
しかし、難民申請を繰り返す者の中には、条約上の難民でありながら、日本が難民条約につき独自の解釈を行っている結果、難民認定を受けられていない者が相当数存在する。このことは、UNHCRからも、日本が「他の先進国に比べ、難民認定の基準がかなり厳しい」と指摘され、とりわけ難民認定率が低い国として唯一名指しされていること、日本で難民と認められなかった難民が他国で難民と認められる例が枚挙に暇がないことなどからも明らかである。法務省こそが、難民認定制度を誤用しているものと言わざるを得ない。
この点について、何ら反省・真摯な検討を経ずに、送還だけを促進しようとすれば、さらなる人道的危機を招くことは火を見るより明らかである。
私たちは、日本が難民条約の締約国であるにもかかわらず、難民認定の正確性、制度の公平性・透明性の向上といった真の難民保護の実現のための施策をないがしろにしたまま、再申請や送還停止効果の制限のみを進めることには、強く反対する。
法務省は、「法」を司る省であるが、「法」には、国内法のほか、日本が締約国となっている条約も含まれる。しかし、非正規滞在者に対する収容は、国際人権条約上求められる収容に関する原則にことごとく反し、出入国管理の分野においては、「法の支配」が及んでいないと言わざるをえない状況にある。その結果、非正規滞在者の収容は、人道危機ともいうべき事態に至っている。
私たちは、法務省が自ら法を踏みにじる姿勢をこれ以上看過することはできない。
私たちは、法務省に対し、条約を遵守し、出入国の分野における法の支配を確立し、人間の尊厳を確保することを強く求めるとともに、難民申請者を含む非正規滞在者の支援に携わる団体として、このような事態を一刻でも早く改善するために全力を尽くすことを誓う。
2019年10月25日
≪賛同団体(50音順)≫
特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク
牛久入管収容所問題を考える会
外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会
外国人人権法連絡会
人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)
全件収容主義と闘う弁護士の会 ハマースミスの誓い
全国難民弁護団連絡会議
日本カトリック難民移住移動者委員会
入管問題調査会
[1] 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告について」(令和元年10月1日)、http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri09_00050.html
[2] 福島瑞穂参議院議員ホームページ(http://mizuhoto.org/2091)掲載資料による。
[3] 国連自由権規約委員会による恣意的拘禁の禁止(9条1)に関する一般的意見35号、国連恣意的拘禁ワーキンググループによる移住者の自由の剥奪に関する改定審議結果第5号等参照。
[4] 自由権規約委員会第6回(2014年)日本定期報告審査にかかる総括所見パラグラフ19、人種差別撤廃委員会第7回・第8回・第9回(2014年)日本定期報告に関する総括所見パラグラフ23、同10・11回(2018年)総括所見パラグラフ36、拷問等禁止委員会第2回日本定期報告に関する(2013年)総括所見パラグラフ9など。