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第1回「2週間の仮放免」は〝猫とねずみ法〟


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第1回 「2週間の仮放免」は〝猫とねずみ法〟

(カトリック新聞 2020年3月29日号掲載)
「日本人の配偶者がいる」「日本に重病の家族がいる」「母国に戻れば殺される」など、さまざまな事情で日本にとどまる決意をした「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は、彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、強制送還したりしている。今号から「非正規滞在の外国人」に焦点をあて、日本で起きている人権侵害の問題を考えてみたい。第1回は、難民認定申請中のサファリ・ディマン・ヘイダルさん(昨年8月25日付既報)。

イラン人のサファリさん(51)は来日29年になる。現在は、茨城県牛久市にある東日本入国管理センター(以下・牛久入管)に収容されている。収容期間は通算3年8カ月を超える。来日後、母国イランでの迫害を訴え、難民認定の申請を行った。しかし、入管で不認定処分を受けた。現在、3回目の申請を行っている。

支援者らに深い感謝を表すサファリさん

突然の収容
最初に東京・港区の東京出入国在留管理局(以下・東京入管)に収容されるまで、サファリさんは2カ月ごとに「仮放免」の延長手続きを繰り返してきた。「仮放免」とは、法務省が「非正規滞在の外国人」に対して、厳しい生活制限の下、入管の収容施設外での生活を認めるものだ。
日本人の友人も多く、平穏な生活を送っていたサファリさんだったが、2016年6月、延長手続きに行った東京入管で突然、拘束された。「仮放免」の延長が認められなかったのだ。
サファリさんが理由を尋ねると、職員は「入管の都合」と答えるだけ。状況がのみ込めないまま、東京入管に収容され、4カ月後、手錠と腰縄を掛けられて、牛久入管まで移送された。日本は難民条約の締約国だが、難民認定率は0・3%(2018年度)と極端に低い。牛久入管の被収容者の75%(今年1月1日時点)は難民認定申請者だ。

 

命がけのハンスト
牛久入管では現在、237人(1月1日時点)の男性が収容されている。大部屋は10畳ほどの広さに5人収容。トイレには換気扇がなく、臭いが部屋中に漏れてしまう環境だ。
自由時間は、午前9時20分~11時40分、そして午後1時~5時10分の計6時間半。その間は、部屋から出てシャワーや洗濯、運動をすることが許されるが、2年前にある国会議員らが改善要求を出すまで、午前中のシャワーは水しか出なかった。公衆電話はKDDIのみで、国際電話用カードで国内通話をすると高額の出費になる。また、外部から被収容者に電話をかけることはできない。そして自由時間以外の17時間以上は、ドアの外から施錠され、部屋に閉じ込められてしまう。

収容されて半年たったころから、サファリさんは精神的に不安定な状態に陥り、1年過ぎた頃には眠れなくなった。
「3年間に十数回も『仮放免』を申請しましたが、全て却下。俺は前科も全くない。拘束される理由も、いつ解放されるのかも分からない。『ここから出るには死ぬか、病気になるしか方法がない』と思い詰めた人たちが、それぞれ自主的に、ハンガーストライキ(以下・ハンスト)を始めました」
サファリさんも昨年6月、命がけのハンストを始めた。最初の5日間は水も飲まなかった。めまいや吐血を繰り返す苦しみの中で、体重は10㌔以上激減。2カ月後、念願の「仮放免」が認められて、牛久入管から解放されたものの、それは前例のない「2週間」という極端に短いものだった。
「俺は入管にハメられたと思いました。外に出て自由になったはずなのに、仮放免が始まった7月31日から、2週間後の出頭日(延長申請日)のことを考え、怖くて眠れなくなっていきました」とサファリさんは話す。
8月14日の出頭日、抑うつ症状が出ていたサファリさんは、担当の駒井知会弁護士に伴われていたが、恐怖で手はガタガタ震えていた。駒井弁護士が各種診断書を入管に提出したにもかかわらず、医療の専門家である医師の判断ではなく、「入管の都合」でサファリさんは再収容された。

収容はみせしめ
牛久入管に再収容されて間もなくたって、職員から言われた言葉を、サファリさんは忘れることができない。
「これ(長期収容)はみせしめだ。自分の口から『(母国に)帰る』と言うまで収容する。3年で足りなければ、4年だ」
サファリさんはうつ病を発症。心因性の「摂食障害」のような症状も出て、体重がさらに10㌔減った。今年1月7日、3度目の「2週間の仮放免」が認められたが、出頭日に、医師の診断書が考慮されることもなく、サファリさんは再び牛久入管に収容された。心身共に衰弱しきったサファリさんが「大部屋ではなく、一人部屋で休ませてほしい」と職員に願うと、3日間、〝懲罰房〟(隔離室)に入れられたという。

それ以降、サファリさんは、無意識のうちに壁に頭を打ち付ける。腕などに記憶にない自傷行為の痕を見つけて驚き、心が沈む。夜は「死にたい」気持ちになる。「友達に会いたくなる」と、「早くここから出たい」という感情が襲ってきて、どうしようもなくなる。

国連に訴える
サファリさんの解放を求めて駒井弁護士は、過酷な闘いを続けている。そして、この前例のない「2週間の仮放免」について、駒井弁護士は、1913年に英国でできた通称〝猫とねずみ法〟を挙げて説明する。
百年前の英国で、女性参政権を求めて逮捕された活動家たちが、刑務所でハンストによって抗議を続けた。これに対して政府は、まるで猫がねずみをもてあそぶように、弱った活動家をいったん釈放して、体が回復したら再び収容していたぶった。常軌を逸した拷問法だ。

駒井弁護士はこう話す。
「日本の入管が難民認定申請者らにやっていることは、これをさらに残虐にした劣化版〝猫とねずみ法〟です。一世紀前にできた残虐法が、日本では今まさに現在進行形で使われている現実を、私たちはもっと重く受け止めるべきです」

国連は、サファリさんが体験しているような、根拠も正当性も見当たらない身体の拘束(恣意的拘禁)を禁止している。駒井弁護士らは昨年10月、国連恣意的拘禁ワーキンググループ(人権状況の監視と人権侵害を防止するシステム)にサファリさんらの事例を通報している。全国の入管収容施設では、無期限の長期収容により自殺者や餓死者も出ている状況だ。

 

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