(カトリック新聞2020年10月11日号掲載)
日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」への人権侵害を考える連載第16回は、入管収容施設の外で暮らす「仮放免」生活の過酷な日常について。
「仮放免」とは、在留資格が得られず「非正規滞在」となった外国人に対して、入管が入管収容施設の外での生活を認める制度だ。 入管収容施設で、無期限の長期収容を強いられている外国人にとっては、「仮放免」の許可を得て、家族と一緒に暮らせること、また地域社会の中で生活できることは、「念願」だったはずなのだが、いざ「仮放免」生活が始まると、過酷な〝厚い壁〟が彼らの前に立ちはだかる。
困難な住居の確保
難民認定申請者のAさんは約4年間、入管収容施設にいたが、コロナ禍の「3密」(密閉・密集・密接)防止対策の一環で、今年の夏、やっと「仮放免」が認められた。当初はAさんを支援する入管面会ボランティアの家に住んでいた。しかし、1カ月が過ぎたころ、「これ以上ここで生活しては迷惑がかかる」と思い、アパート探しを始めた。
Aさんはこう話す。
「所持金もほとんどないので、アパート暮らしは無理だと思っていたけど、部屋探しを始めました。『仮放免』の外国人にも部屋を貸してくれる不動産会社はありました。でも、条件は自分名義の口座があること。そこで銀行に行ったところ、今度は、『銀行口座を開設できるのは、6カ月以上の在留資格がある人に限る』と言われてしまいました。つまり、『仮放免』の人が、自力で部屋を借りることは不可能だと知ったのです」
運よく、Aさんは、数少ない難民認定申請者を対象にしたシェルター(緊急保護施設)の一つにつながることができたが、「仮放免」中に〝ホームレス状態〟に陥る者も少なからずいるのだ。
就労禁止で収入はゼロ
そして、「仮放免」が認められた人たち(以下「仮放免者」)が、異口同音に訴えるのは、「就労禁止」の過酷さだ。
入管は、「在留資格がない」ことを理由に、「仮放免者」の就労を認めていない。入管は、絶えず監視の目を光らせ、彼らが働いていることが分かれば、すぐに入管収容施設に再収容する。
衣食住に必要な最低限度の生活費を稼ぐことができないということは、「病気」や「死」に直結する。善意の人々からの支援金や、フードバンク等からの食料支援がなければ、いのちをつなぐことはできない。
「生活が大変なのに、『仮放免』の延長手続きで入管に行くと、職員は『生活費がどこから出ているのか証拠を見せなさい』と言ってきます。支援者から送られた現金書留の封筒などを見せます。支援を受けている〝証拠〟がないと、『就労の疑いがある』ということになってしまうのです」(Aさん)
居住地からの移動が制限
就労を禁止され収入がなく、生活苦に追い込まれている「仮放免者」に、さらなる〝出費〟を強いる入管の〝システム〟がある。その一つが、「仮放免者」の移動の制限。「仮放免者」が、自分の住んでいる都道府県から出る場合には、必ず入管に「一時旅行許可」をもらうことを義務付けている。
難民認定申請者のBさんは、茨城県在住の「仮放免者」だが、隣接の千葉県に住む「仮放免者」から「SOS」の連絡が来たとしても、すぐに会いに行くことは禁じられている。そうした場合はまず、茨城県から電車で2時間以上もかかる品川(東京港区)の東京出入国在留管理局(以下・東京入管)に出向く。そして、「一時旅行許可」を得なければならない、としている。
つまり、居住地の最寄りの駅から電車でたった30分ほどの千葉県在住の友人に会いに行くために、まずは2時間以上をかけて東京入管に出向き、千葉県某市の友人宅訪問に関して「日付・場所・目的」を届け出て、茨城県から千葉県某市に行く「一時旅行許可」を申請するのだ。食べる物にも窮している人にとって、往復約4千円の交通費がどれだけ〝重い〟負担になることか。しかし実際には、時間とお金をかけて申請に行って、何時間も待たされた揚げ句、「許可」が下りない、ということも珍しくないのだという。
「仮放免」の延長手続きに関しても厳格だ。延長手続きは、通常1カ月または2カ月ごとに、入管が定めた「出頭日」の「午前10時まで」にその入管窓口にいなければならない。新潟県在住の「仮放免者」が、東京入管で「仮放免」の延長手続きをするためには、前日に出発するか、早朝の新幹線を利用するしかない。いずれにしても相当な費用がかかる。
国民健康保険に入れない
〝出費〟を強いられる大きな要因は、まだある。「仮放免者」は、国民健康保険に加入できない。そのため、医者にかかれば治療費は全額実費で支払わなければならないのだ。難民認定申請者のCさんは約4年もの間、入管施設に収容されていたことから、精神的な病気になってしまった。今春、「仮放免」が認められ、今は千葉県内の友人宅に身を寄せているが、現在も睡眠障害が治らず、紹介された東京の精神科医に行くことになった。
しかし、Cさんが通院するためには、前述の通り、まず東京入管まで行って「一時旅行許可」を得る必要がある。そして、改めて別の日に通院するということになる。結局、1回の通院に、必ず東京入管への旅費が加わり、さらに健康保険のない実費の医療費と移動費が合わさるので、出費は3万円以上にもなってしまうのだ。
これは一般市民でもとても払いきれない高額出費といえる。こうしたことから、ほとんどの「仮放免者」は医者にかかることができずに、病が重症化するケースが多いというのが現実だ。
「仮放免者」らは、皆、口をそろえてこう訴える。
「難民として国を出て、保護を求めた日本で、私たちは精神的拷問を受けています。私たちは動物ではない。同じ人間です。どうか助けてください」
「仮放免者」らは、常におびえ、不安にさらされている。「仮放免」の延長手続きで入管に行くときはなおさらだと言う。入管の〝さじ加減〟で、いつ突然、再収容されるかもしれないという恐怖を常に抱いているからだ。彼らを〝締め上げる〟入管の狙いは一体、何なのだろうか。