(カトリック新聞2020年12月6日号掲載)
日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」への人権侵害を考えるシリーズ第21回は、神奈川県鎌倉市に難民の一時保護施設(以下「センター」)を開所して半年余りがたつNPO(特定非営利活動)法人アルペなんみんセンター(本紙4月26日付紹介)のその後を紹介する。
「センター」はJR鎌倉駅からバスで15分ほどのイエズス会・日本殉教者修道院の敷地内にある。現在、幼児を含む8人が共同生活を送っている。この半年間、同NPO事務局長の有川憲治さんは、共同生活の在り方について試行錯誤を繰り返してきたが、9月に入所したミャンマー人Mさんが食事係を買って出てくれたことから、全員一緒に食卓を囲むことが可能になり、少しずつ「共同体」らしくなってきたところだという。
入所者の多くは、入管収容施設の外で暮らす「仮放免」中で、就労が禁止されているため、日中は建物・敷地内の清掃や畑仕事などをして過ごす。そして日曜日は、それぞれの宗教に応じて、教会等に通っている。
難民の背景は多様
入所者の背景はさまざまだが、心に傷を負った者が少なくない。来日20年になるウガンダ人のBさんは、日本に留学経験もある国立技術学校の教師だったが、政府批判をしたことが原因で解雇され、度重なるハラスメント(嫌がらせ)を受け、命の危険を感じて出国した。日本での「仮放免」生活は10年に及び、生活費も住む場所もなく、2週間ほど公園でホームレス生活をしたこともある。
スリランカ人のFさんは、母国では大臣のボディガードをしていたが、武装組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)から命を狙われ、銃弾を受けた。父親と兄は殺されたという。日本での生活は20年になるが、母国でのトラウマ(心的外傷)で不眠に悩まされている。
一方、イラン人のAさんはキリスト教に憧れを持っていたことから迫害を受け、イランを出国し、ボートで地中海を渡り、ギリシャで難民認定を受けている。しかし経済危機で失業。友人を頼って来日した。「仮放免」生活は12年で、先の見えない状況に不安な日々を過ごしている。
このように母国を逃れてきた難民認定申請者が、在留資格がないために入管施設に収容された場合、「仮放免」の申請をする上では①住所(生活拠点)②保証人、そして③保証金が必要になってくる。彼らにとって「センター」のように、無償で生活の場を提供してくれる「受け皿」があることは、「安心安全」につながる。「センター」の入所者は「ここは安全だから天国」と異口同音に語る。
出会いの場を提供
一方で、彼らの多くが口にするのは、「寂しいので話し相手がほしい」ということだ。外部の人々とのつながりをもっと増やして、地域に溶け込み、友人を増やしたいと切望している。ただ、コロナ禍で、地域に出向いたり、交流したりするのが難しい状況だ。
有川さんは、カトリック東京国際センター(CTIC)で難民支援をしていた頃、東京の目黒教会や本郷教会で、日本語教室や昼食の提供などを通して、「人々が難民と出会える場」をつくってきた。
「難民と出会ったことがないと、難民問題は遠い国の話になってしまいます。しかし、難民と友達になれば、ミャンマー、ウガンダ、スリランカ、イランなどのニュースを聞いただけで心が動きます。そして難民問題が自分の問題になり、『自分にできることは何か』と考えるようになります。もはや目の前の相手は、難民ではなく、名前を持った友人になるのです」と有川さんは話す。
そこで、「センター」を地域のこども合唱団の練習場所、市民団体の交流の場としても活用してもらい、「難民との出会いの場」を提供している。また、修道会の研修会に難民(入所者)と共に出掛けたり、大学のゼミ授業を受け入れたりして、難民を身近に感じ、難民への理解が進むように努めている。
難民認定率は人権状況の表れ
世界の難民は8千万人を超え、日本でも毎年1万人を超える外国人からの難民認定申請がある。有川さんは、難民の姿を通して伝えたいことがある。
「センター」の入所者がもし他の難民条約締約国の先進国で難民認定申請をしたとすれば、彼らはその要件を満たしており難民として十分に認められる。しかし、日本では、何度難民認定申請をしても却下されてしまう。有川さんはその一例を次のように話す。
「イランでは、イスラムからキリスト教に改宗すれば死刑になります。Aさんのようにキリスト教に関心を持つ人が、キリスト教の話をするだけで当局の監視下に置かれてしまうのです。でも日本の入管は、改宗しても『他人に知られないように静かに祈っていれば大丈夫』という認識。自分たちの知見で判断するので、根拠のない『大丈夫』が多くなり、日本の難民認定率は0.4%になってしまうというわけです」
難民条約とは、母国で人権が保護されない人を、国際社会で保護するシステムだ。
「それぞれの受け入れ国で、『難民』として認める基準(レベル)を決めるわけですが、その基準が各国の人権意識や人権状況を示していると言われています。難民を受け入れるということは、私たちの人権意識(他者を大切にすること)を見つめ直すきっかけになると思います。難民を受け入れることは、地球市民の一員として、私たちの日本社会をより豊かにするために必要不可欠だと感じています」と有川さんは強調していた。