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第4回 入管収容施設の人権侵害と医療放置 (上)


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(カトリック新聞 2020年5月17日号 掲載)
日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」への人権侵害を考えるシリーズ第4回は、入管収容施設での惨状や医療放置問題に抗議を続けるイラン人、ベヘザード・アブドラヒさん(41)の前半。

難民認定申請中のべヘザードさんは現在、茨城県牛久市にある東日本入国管理センター(以下・牛久入管)に長期収容されている。新型コロナウイルスの感染拡大で、日本政府や都道府県は①密閉②密集③密接の「3密」状態を避けるようにと呼び掛けている。しかし、まさにこの「3密」が当てはまる入管収容施設に、ベヘザードさんたちは取り残され、日々、感染の恐怖にさらされている。
今年1月1日時点で牛久入管に収容されている人は237人。そのうちの75%が難民認定申請者である。中には、母国で迫害を受け日本に保護を求めたが、難民として認めてもらえない人、また日本人の妻がいるにもかかわらず、配偶者ビザをもらえない人、10年目にして在留資格が更新されず、突然収容された人もいるのだ。収容期間は長い人で7年に及んでいる。

長期収容は違法

しかし実際は、こうした長期収容は違法に当たる。入管法上の「収容」は、あくまでも送還の準備のためだけに認められるもの。ところが現実には、母国に帰れない難民らに在留資格を与えず、無期限の長期収容を行っている。
この点について、全国難民弁護団連絡会議、ならびに全件収容主義と闘う弁護士の会「ハマースミスの誓い」は昨年7月23日、法務大臣らに宛てて、次のような緊急共同声明を発表している。
「(入管法上の収容)は刑罰でもなければ、保安処分でもなく、条件違反者に対する見せしめのために使われるものではありません。送還の予定が立っていない外国人、送還が法律上禁止されている難民申請者を収容するのは、目的外収容で違法なのです」
出口の見えない無期限の長期収容で、被収容者の多くが精神を病み、自ら命を絶つ者も出ている。ベヘザードさんはこう話す。
「収容されている人の共通点は、長期収容によって『精神』と『体』と『家族』の三つが壊されていることです。ある人は『仮放免』(収容施設外での生活を認める制度)に希望をかけて1年待ったのに、許可が下りず、絶望して自殺しました。ある人は、英語で『死にそうだ』と言いながら病死しました。また親を収容されてしまった子どもはどうやって生きていけばよいのでしょうか。子どもたちの心の傷は、日本社会の傷になっていくのです」
収容施設内では、次のようなことも起きている。
被収容者が精神的に不安定になり職員に大声を出して助けを求めると、風紀を乱したという理由で〝懲罰房〟(隔離室)に入れられる。職員の指示に納得できず従わない被収容者は、「制圧」と称して、複数の職員から体を押さえつけられ手足を縛られる。また体調不良を訴えても、外部の病院につなげてもらえず、くも膜下出血で死亡した人も出るなど、医療放置の問題も深刻だ。

一人ボランティア

こうした外国人の人権が守られていない状況下で、クリスチャンのベヘザードさんは目の前で大切な命が失われていくことに我慢ができず、意を決して2017年、牛久入管内で仲間を支えるために行動を起こした。
「自分一人でボランティア活動を始めようと決心しました。私にはお金も力もないけど、ペルシャ語、トルコ語、英語、日本語ができる。例えば、空港の入国審査時に難民認定申請を希望し、そのまま牛久入管に収容された人たちは、日本語も日本の支援制度も全く分からない。お金もなく、日本に知り合いもいない。難民である自分たちがなぜ収容されたのかも理解できない。そうした人々を助けたいと思いました」
ベヘザードさんのボランティア活動は、日本語が分からない被収容者の代わりに弁護士事務所に電話をかけて、弁護士とつながれるようにすること。そして弁護士と被収容者の通訳をすること。また自分たち自身の身を守るために幾つかの申請書類があることを説明し、日本語で代筆をすることなど。この活動で、これまで20人ほどが「仮放免」の許可を得ることができたという。
またベヘザードさんは、支援者から食品や生活用品などの差し入れがあった場合は、栄養が足りない病気の被収容者や、経済的な問題で必要な物を買えない被収容者に均等に配っている。
「基本的人権が守られない入管収容施設は、まるで『反日』の外国人を育てるような場所になっています。空港から直接、牛久入管に収容された難民たちは、日本社会で暮らした経験が全くないので、『入管収容施設』が『日本』そのものだと思い込んでいます。私は彼らに差し入れ品を分かち合いながら、被収容者のことを心配している日本人がいることを伝え、問題は、入管制度なのだということを説明しているのです」
こうした活動以外にも、ベヘザードさんは収容施設内で人権侵害が起これば職員に抗議し、また環境改善のための要望書を書くことにも取り組んできた。しかし、状況は全く改善されていないという。
そうした中、2019年6月24日に、長崎県大村市にある大村入国管理センターで事件が起きた。長期収容されていたナイジェリア人が、自由を求めてハンガーストライキを続ける中で餓死したのだ。
「一人の命が亡くなったのに、入管は『自分たちの対応に問題はない』と言ったのです。収容所の中だけで職員に抗議しても何も変わらない。彼の死を無駄にしたくないと思いました。それで、私は入管内部で起きている人権侵害について外部に発信することを決意したのです」
それ以後、ベヘザードさんは、入管収容施設内の実態を把握するために、他の被収容者への聞き取り調査を始めていく。
(後半は、次号に掲載)

写真=入管収容施設での惨状を訴えるベヘザードさん㊨

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