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第45回 ビデオカメラに映った「入管」の〝不都合な真実〟

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㊺ ビデオカメラに映った「入管」の〝不都合な真実〟
(カトリック新聞 2021年10月10日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第45回は、隠しカメラで「入管」に収容されている難民認定申請者等を撮影したドキュメンタリー映画『牛久~比類なき不正義』を取り上げる。

入管施設内に足を踏み入れると、「敷地内撮影禁止」の貼り紙や立て看板が要所要所に存在している。
また弁護士や支援者など外部の人々が、入管施設で被収容者に面会する時には、携帯電話やカメラ、録音機の持ち込みは禁止。荷物は全てロッカーに収納し、面会室に入る前には金属探知機のボディーチェックを受ける。収容施設内で何が起きているのか、その様子を録音したり映像として残したりすることは許されていない。
しかし、その禁止事項を〝突破〟し、映像に収めた人がいる。
米国人のドキュメンタリー映画監督、トーマス・アッシュ氏だ。茨城県牛久市にある東日本入国管理センター(以下・牛久入管)に1年半通い、被収容者の許可を得て、隠しカメラで面会室でのやり取りを録音・録画。映画『牛久』を製作して、入管による人権侵害を告発したのだ。
映画は、今年6月に開催されたドイツのニッポンコネクション映画祭でオンライン上映され、ドキュメンタリー部門の「ニッポン・ドックス賞(観客賞)」を受賞。さらに9月には韓国DMZ国際ドキュメンタリー映画祭で、アジア部門の最優秀賞「アジアの視線賞」に輝いた。米国、ベルギー、オランダでも上映されたが、近く日本でも公開が予定されている。10月7日から14日まで、オンライン開催される山形国際ドキュメンタリー映画祭の上映作品の一つに選ばれ、9日午後2時に上映されるのだ(https://www.ushikufilm.com/)。今後もさらにヨーロッパ各地を回るという。

 隠しカメラの是非ではない

87分に編集された映像に映し出されているのは、被収容者たちが証言する出口の見えない「無期限収容」の〝無間地獄〟や、命を脅かす医療放置、また入管職員による暴言・暴力・脅迫など、被収容者の心身を痛め付ける〝拷問〟の実態だ。ある若い被収容者がどんどん衰弱し、精神的に壊れていく様子も記録されている。
今年5月28日に東京・参議院議員会館で開催された上映会&トークイベントで、日本在住18年のトーマス監督は、映画製作の理由をこう述べた。
「最初は教会の友達と牛久入管に面会に行き、面会時間(30分)の間、相手(被収容者)が望めば祈りのひとときを持つこともあった。面会活動自体を非難するつもりは全くないのですが、しかし、面会活動だけでは問題は何も解決しません。入管の問題を知ってしまった以上、何かしなければならないという、神様からの使命を感じました。映画製作が目的ではありません。(危険を侵)したくはないけれど、これ以上、入管による被害者が増えないように映画をつくらなければならないと思ったのです」
トークイベントにはマスコミ関係者も駆け付け、入管のルールを破って隠しカメラで撮影した行為についてトーマス監督を非難する一幕もあった。
しかし、そうした非難の質問に対して抗議の声を上げたのは、映画に出演した当事者たちだった。撮影当時、牛久入管に収容されていた難民認定申請者たちは現在、入管収容施設外での生活が認められる「仮放免」の身であるため、トークイベントに参加することができたのだ。
当事者の出演者たちは、名前も顔も公にして、映画撮影に協力した。このことで、入管からのさらなる〝虐待〟や〝迫害〟に遭うかもしれない。その危険を承知の上で、彼らがトークイベントで異口同音に訴えたことは、次のことだった。
「入管で起きている人権侵害を日本の人々に伝えても、『そんなことはあり得ない』と言われてしまい、信じてもらえない。でもドキュメンタリー映画になれば『本当なのだ』ということが分かるはず。映画の製作を非難するのではなく、私たちが入管から報復されるかもしれない大きなリスク(危険)を負ってでも、また自分たちの人生を犠牲にしてでも、映画で事実を伝えて、入管施設での不正行為を終わらせようとしていることに注目してほしい」

 当事者が語る人権侵害

出演者の一人で、仮放免中のクルド人難民認定申請者のデニズさん(本連載第9回紹介)は、入管収容施設内で、睡眠薬や精神安定剤、抗(こう)精神病薬などの不適切な処方で〝クスリ漬け〟にされた。そして、向(こう)精神薬の処方が変わる度に、無意識のうちに首をつったり、ビニールを飲み込んだりといった自殺未遂を繰り返した。さらに入管職員から「制圧」と称して集団暴行も受けている。
また、現在「仮放免」中のピーターさんは2年前、迫害の恐れがある母国に強制送還されそうになり、その時、入管職員から「制圧」を受けて大けがを負ってしまった(本連載第26回紹介)。
登壇したもう一人の男性は、「(牛久入管施設内で)インド人が自殺したのを間近で目撃。生まれて初めて自殺の現場を見て、『助けてあげられなかった』という思いが自分の心にずっと残っている」と苦しい胸の内を吐露した。
一方、入管職員が、難民認定申請者を帰国させるためによく使う手法についても話は及んだ。難民認定申請者と結婚した日本人女性を説得するために、入管職員が使用する決まり文句は「あなたの夫は偽装難民だから離婚した方がいい」という一言。この言葉を真に受けて、離婚した日本人女性は少なくない。また夫が入管に収容されてしまうと、精神的かつ肉体的に疲れ切ってしまい、離婚を決断する日本人女性も数多くいるという。

 帰国させるため家庭を壊す

カメルーン人の難民認定申請者、ルイス・クリスチャンさんも同様の経緯で離婚を経験しており、家庭崩壊の身の上を語った。
クリスチャンさんは母国や周辺国で命の危険に遭い、日本に逃れてきたが、難民として認めてもらえず、7年間、入管施設に収容。つらい日本での生活にも耐えられたのは、日本で出会った日本人の妻と子どもの存在だった。しかし、クリスチャンさんによれば、入管職員は、二人目の子どもを妊娠していた妻に「あなたの夫は、本当の難民じゃない。偽装難民。だから、子どもを堕(お)ろして離婚した方がいい」と言ったという。
その言葉をうのみにした妻は、二人目の子どもを中絶し、クリスチャンさんの前から姿を消してしまったという。
クリスチャンさんは、こう訴える。
「日本に保護を求めた外国人は、サポートを必要としています。でも日本は紛争や迫害から逃れて来た外国人を抑圧し、入管施設に収容する。多くの人(難民認定申請者)はアジアやアフリカ、南アメリカの〝弱い国〟の出身です。日本は欧米の〝強い国〟の人たちに、同じことはしないでしょう。このようなことが日本で起きているのに、国際社会は何も言わない」
クリスチャンさんにとって、今回の映画出演には迷いもあったという。自分の姿をさらけ出し、声を上げることに不安と恐怖があった。しかし、それでも難民として保護を求めた日本でひどい〝仕打ち〟を受けた、その事実を公にするために映画に出演して、トーマス監督作品を100パーセント支持することに決めたのだという。
クリスチャンさんは言う。「日本で難民認定申請をすることは、危険なことだと多くの人に知らせたい」と。
これが難民条約に加盟している日本の難民政策の実態だ。しかし、今、多くの人の犠牲によって、これまで隠蔽(いんぺい)されていた入管の〝不都合な真実〟は、少しずつ暴かれ始めているのだ。

※2022年2月26日から、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開決定。

写真(1)=トーマス・アッシュ監督(映画『牛久』2021より)

 

 

 

 

 

 

写真(2)=入管収容施設内の面会室で語るピーターさん㊧、デニズさん㊥クリスチャンさん㊨(映画『牛久』2021より)

 

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