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第56回 入管収容施設での二つの〝拷問〟

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56 入管収容施設での二つの〝拷問〟
(カトリック新聞 2022年3月27日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第56回は、入管施設で継続されている「無期限・長期収容」と「医療放置」の問題について。

「人間に生まれてきて、よかったです。(中略)私たち人間は深く考えることができるから、許すこと、助けることができるのです。(中略)すてきな人生のために私たちは長い道を一緒に行かなければなりません」
この文章は、昨年3月6日に名古屋出入国在留管理局(以下・名古屋入管)で医療放置の末に死亡したスリランカ人女性留学生、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が、亡くなる約2カ月前に友人に宛てた手紙の中の一節だ。
名古屋入管で健康を害し、過酷な生活を強いられた状況の中でも、最後まで人間の「善意」を信じたウィシュマさん。彼女が亡くなって、今年の3月6日で丸1年がたった。
1周忌当日には、東京、名古屋、大阪など全国各地で「1周忌追悼デモ」が開かれ、弁護士や外国人支援者、また一般市民らが、ウィシュマさんを死に至らしめた「入管行政の在り方」に抗議の声を上げた。

死亡事件の原因を証明する

マスコミも注目したこの死亡事件に、入管はウィシュマさんの死後間もなく、入管内に「調査チーム」を設置。そして昨年8月10日、〝最終版〟とする「調査報告書」を公表したが、ウィシュマさんの「死因は不明」としている。
また、死亡に至る具体的な経過(機序)も「特定が困難」としているにもかかわらず、彼女の死が、入管内の医療体制が十分に整っていないことに起因すると結論付けている。そして、さらにそれを根拠に、改善策として医療体制の強化案を挙げ、あたかも入管の対応に何の落ち度もなかったかのような〝幕引き〟を演じている印象を与える内容となっているのだ。
しかし、この「調査報告書」に対して納得できないウィシュマさん遺族は、「1周忌」直前の3月4日、名古屋地方裁判所に国家賠償を求めて提訴。同日、名古屋市内で開かれた記者会見で、ウィシュマさんの妹、ポールニマさんは提訴の理由をこう説明した。
「昨年5月に来日してから、警察に行ったり、法務大臣に会ったり、国会で話したり、総理大臣に手紙を書いたりもしました。そして姉の死から1年もたったのに、死因さえ特定されず、責任の所在さえ明確にならない。真相を究明するためには、結局、この方法(訴訟)しかありませんでした」
関東・中部・関西・九州の21人の弁護士で結成されたウィシュマさん遺族代理人弁護団の事務局長を務める児玉(こだま)晃一弁護士は、訴状の主な内容を2点挙げた。
「まず入管施設に収容する必要がないのに収容を継続して、ウィシュマさんを死に至らしめたこと、そして入管がウィシュマさんに適切な医療を提供しなかったために、わずか33歳の命を奪ったこと。この2点について、国の責任を問う裁判なのです」

「収容」問題は東京五輪で拡大

日本で入管施設における「収容」が「無期限・長期」かつ、「濫用(らんよう)的」になったのは2016年以降のこと。20年に東京でのオリンピック・パラリンピック(以下・東京五輪)開催が決まった(13年)ことを受け、16年4月、入管(当時・入国管理局)は局長名で次のような要旨の内部通達を出した。
「非正規滞在の外国人」は日本社会に「不安を与える」存在であるため、「安心安全な社会の実現」に向けてその数を東京五輪までに「大幅に縮減することは喫緊の課題」。
そしてその「非正規滞在の外国人」の「効率的・効果的な排除」のために使われた手段が、入管施設での「無期限・長期収容」だったのである。
16年6月から約4年間、入管施設に収容されたイラン人の難民認定申請者は、入管職員から言われた言葉として、こう証言している。
「これ(長期収容)は見せしめだ。自分の口から『(母国に)帰る』と言うまで収容する。3年で足りなければ、4年だ」
実際に18年2月28日の入管内部の通達では「原則、送還が可能となるまで収容を継続」と指示が出ている。いつ収容施設から出られるか分からない収容生活で、被収容者は心身共に衰弱する。彼らを希望が見えないその苦しみに耐え切れなくなるほど追い詰め、「母国に帰る」と言わせるのが、「収容」という名の第1段階の〝拷問〟なのだ。こうした意図的な「無期限の長期収容(拘禁)」は、国際法違反に当たる。
そして「収容」の結果、体調を崩した被収容者を意図的に医療放置するのが、第2段階の〝拷問〟になる。
ウィシュマさん遺族代理人弁護団の一人、指宿(いぶすき)昭一弁護士は記者会見で「医療体制の不備でウィシュマさんが亡くなったわけではありません」と、強い口調で断言していた。
「ウィシュマさんが亡くなったのは、入管による意図的な医療放置です。ウィシュマさんを帰国させるために、医療放置をして追い込んで、自ら『帰ります』と言わせる。そのために(医療放置という形の)〝拷問〟が行われていたんです」
ウィシュマさんは死亡する約3週間前の昨年2月15日、尿検査で飢餓状態を示す「ケトン体3+(プラス)」という数値が出ていたが、名古屋入管は何もしなかった。点滴も打たせなかった。入院もさせなかった。「仮放免」(入管収容施設外での生活)も認めなかった。これらは、「医療体制」の問題ではなく、入管の「医療放置」に他ならない。
つまりこの国家賠償請求訴訟の訴状にある通り、遺族代理人弁護団は、ウィシュマさんを死に至らしめた「本当の原因」が、入管施設における①「収容」と②「医療放置」だということを証明しようとしているのだ。

「仮放免」者の「再収容」問題

ところが、入管はウィシュマさん死亡事件を医療体制の問題として片付けて、反省するどころか、これまでと同様に、「収容」を継続・維持しようとしている。
6年ほど前から東京五輪の開催を理由に、在留資格のない多くの難民認定申請者等が入管施設に収容された。
ところが、2020年には新型コロナウイルスの感染が拡大、東京出入国在留管理局の収容施設でクラスター(集団感染)が発生。そのため全国各地の入管施設では、多くの被収容者に「仮放免」を認める措置が取られてきたのだ。
茨城県牛久市にある東日本入国管理センターにも、コロナ前までは200~300人が収容されていたが、現在の被収容者数は約30人と激減している。
東京五輪の安全確保を理由に収容された難民認定申請者等は、コロナ禍で21年の東京五輪開催前に「仮放免」となったが、実際には、それで日本社会の治安が悪くなったわけでもなく、五輪開催が危険にさらされたわけでもない。
しかし、昨年11月12日、入管・出入国管理部の丸山秀治部長は、入国者収容所長等に宛てて「仮放免者」の「再収容」を促す次のような通達を出しており、その波紋が広がっている。
コロナ禍で「仮放免」が認められた難民認定申請者等に関しては、緊急事態宣言の解除に伴って「収容が相当と判断される者については再収容すること」というもので、再び「収容」という〝拷問〟にかけ、彼らを母国に帰そうとしているのである。
「移住者と連帯する全国ネットワーク」や「日本カトリック難民移住移動者委員会」など6団体は、声明「再収容を許さない」を発表し、3月3日付で法務省にファクスと郵便で送付。現在も賛同団体を呼び掛けている。

名古屋地方裁判所に向かうウィシュマさん遺族代理人弁護団らと、ウィシュマさんの遺影を持つ妹のポールニマさん

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