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第57回 会ったことのない人を思いやる教育

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57 会ったことのない人を思いやる教育
(カトリック新聞 2022年4月17日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第57回は、山口県山口市にある山口天使幼稚園(上田真由美園長)の難民支援の取り組みについて紹介する。

取材のきっかけは、昨年末のクリスマス、生活に困窮する難民認定申請者の命を支える「ともだち基金」に、山口天使幼稚園と山口教会から多額の寄付が届いたとの知らせが寄せられたことだった。
同基金は、イエズス孝女会の小野恭世(やすよ)修道女が1年半前に立ち上げたもので、在留資格がもらえず、就労することも、国民健康保険に入ることもできずに、心身共に追い詰められている難民認定申請者を援助するものだ(本連載第43回紹介)。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、全国各地の教会関係施設では各種行事が自粛され、イベントやバザーも縮小傾向にある。そうした状況下、山口天使幼稚園はいったいどうやって多額の募金を集めたのか?
また「ともだち基金」と共通する理念―「命」と「命」が支え合う精神を、どのようにして伝えているのだろうか。上田園長に直接尋ねた。

1枚の写真が転機

山口天使幼稚園が、難民支援の活動を始めたのは2015年。きっかけは上田園長が目にした、トルコの海岸に打ち上げられたクルド難民の幼い男児の写真だった。砂浜にうつぶせになって亡くなっている凄惨(せいさん)な姿は、全世界に衝撃を与えた。
過激派武装組織「IS(アイエス)」の脅威にさらされ、シリアから逃れた難民たちは、船でトルコからギリシャ領の島に向かっていたが、荒波で船が転覆。その男の子も溺死したのだ。
上田園長はこう話す。
「衝撃を受けました。3歳の子どもが、難民となって、避難の途中で死亡する。その痛ましい姿に言葉を失いました。世界中にたくさんの難民がいるのに、私たちは、一体どこから手を付けたらいいのか―。何かしなければと思ったのです」

難民を知る手作り絵本

山口天使幼稚園に関わっていた一人の司祭が、運よく東京の難民支援協会を知っていたことから、最初に、同協会に難民用の衣類を送ることにした。
そして上田園長から、海外の難民の写真を見せられた山口天使幼稚園の教員は、園児たちが難民の状況を少しでも理解できるようにと絵本を作成した。タイトルは『にほんのおともだち と なんみんのおともだち』。まずは難民キャンプの子どもたちと、日本にいる自分たちとの「食事や水、また住まいや学校の違い」を、写真をふんだんに使って説明したという。
2015年と16年、この絵本を通して難民たちの現状を知った園児たちは、少しずつ変化を見せていった。教員が「難民ってどんな人たちか知っていますか?」と問うと、園児たちは「食べ物がない。服がない。家がない」などと答える。そしてさらに、「温かいお布団で寝られますようにってお祈りする」とか、「温かいお風呂に入れますようにってお祈りするよ」と言う子どもも出てきた。
それ以降3年間、必要な時に難民支援協会に衣類を送る活動を行った。幼稚園では昼食の前後に、子どもたちが自分の言葉で自由に祈る時間を設けているが、ある日の「祈りの時間」には、一人の園児が「難民の子どもたちがぴったりの(サイズの)服が着られますように」と、願いを込めた言葉を口にしたという。

ありがとう献金そして街頭募金

また2018年からの3年間は、山口教会のルイス・カンガス神父(イエズス会)の橋渡しで、内戦で多くの難民・避難民を出したカンボジアの貧困地区の子どもたちの支援活動を実施。
ゴミを拾って生計を立てている地域に保育園を建てる計画があることを知り、教員と園児たちは相談して、自分たちが大切に使っている遊具や楽器をカンボジアに送ることにした。
そして昨年9月、上田園長は、「ともだち基金」の小野修道女からの手紙を読んで、日本にいる難民認定申請者も困窮していることを痛感し、「ともだち基金」に送るために、みんなで募金活動をすることにしたのだ。
子どもたちは毎年10月末から12月中旬まで「クリスマス ありがとう献金」を実施している。園児たちは親と約束事を決めて、それが守れたら、難民支援等の献金をするという取り組みだ。
ある子どもは、毎朝、郵便受けから新聞を持ってくるという約束をした。別の子どもは、家族の役に立つことをすると決めた。そんなけなげなわが子の姿を見て、父親も「今日はビールを我慢しよう」と心掛けたり、母親も「コーヒーは外でなく家で飲もう」と、「使うはずだったお金を貯(た)めて」献金してくれるようになるのだという。
昨年12月には、園児たちはコロナ禍でしばらくできなかった街頭募金を久しぶりに実施した。園児たちは張り切って山口市内の商店街の2カ所に分かれて、大きな声を張り上げる。
「なんみんのおともだちに、ぼきんをおねがいしまーす」
こうした子どもたちに刺激を受けて、保護者も「力になりたい」と難民支援に関心を持つようになり、協力するようになっていく。
昨年末、幼稚園ではコロナ禍の感染対策として8クラス別々に「クリスマスお祝い会」を行った。保護者は8回のクリスマス会ごとに上履き入れや手提げなど、手作りの幼稚園グッズを持ち寄って〝ミニバザー〟と称して募金活動を実施。「私たちが〝買う〟ことが難民支援につながるなんてすてきですね」と話す保護者も多かったという。

人を思いやる教育

山口天使幼稚園ではこの他、子どもたちの心を育てる興味深い取り組みを実施している。東日本大震災で被災した福島の幼稚園に、山口の畑で苗から育てたサツマイモを送る活動もその一つ。園児たちは「福島のおともだちに、とびきり大きなおイモを送ろう」と張り切って草取りも頑張るのだという。「誰かのために自分にできることを考えて、自分のものを差し出す」教育だ。
また夏には、大きなスイカを8クラスで等分し、各クラスに持ち帰り、誰とどうやって分かち合うかを考える。「クラスの皆のほかに誰と分ける?」と教員から問われて、園児たちは「給食の先生!!」「そうだ、園長先生にもあげんといかん!!」と答える。分かち合う人数が増えるほど、自分がもらえるスイカは小さくなる。しかし一人分は小さくなるけれど、「うれしい」と思う人が増えていく。ここで、子どもたちは「分かち合い」の大切さと、実はそれがうれしいことなのだと学んでいく。
そして、園児が年長(5~6歳)になると、幼稚園から保護者に〝課題〟が出される。保護者がわが子の思い出深い写真を選んで、自宅で紙1枚の〝アルバム〟を子どもと一緒に作るのだ。自分が生まれてきた時の話を聞いて、園児は、自分がどんなに愛されている存在なのか、また自分の命がどれだけ大切なのかを感じ取る。
「そうした経験が、見たこともない、会ったこともない友達の命を大切に思い、心配し、幸せになるようにと願う子どもたちに成長させていく」と、上田園長は語っていた。
目の前の友達だけでなく、遠く離れた人のことも思いやれる優しい心はこうして培われていくのだろう。

山口天使幼稚園の教員が作成した絵本『にほんのおともだち と なんみんのおともだち』の一部

山口市内の商店街で、難民のために募金活動をする山口天使幼稚園の園児たち

 

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