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第58回「仮放免者」の生活実態調査

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58 「仮放免者」の生活実態調査
(カトリック新聞 2022年4月24日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第58回は、在留資格がもらえず、「仮放免」生活(入管収容施設外での生活)を強いられている難民認定申請者等の生活実態アンケート調査の報告(前半)。

在留資格がもらえない難民認定申請者等は、日本にいる間、入管から、入管施設への無期限・長期収容、または入管収容施設外での生活が認められる「仮放免」のいずれかの措置を受ける。
「仮放免」については本連載で度々取り上げてきたが、「仮放免」中は、①就労が禁止され、また②国民健康保険に加入することができないなど、日常生活を送るには困難な状況に追い込まれる。
NPO法人北関東医療相談会(後藤裕一郎理事長/通称アミーゴス)は、こうした仮放免者(仮放免中の外国人の意味)が直面している現状を把握したいと、昨年10月から12月にかけて、「仮放免者生活実態調査」(以下「仮放免調査」)を実施した。
そして、その調査結果についての記者会見を今年3月8日、東京・千代田区の厚生労働省内で行った。調査に関わったアミーゴスの大澤優真さんは、次のように述べた。
「仮放免者は、働くことが認められていません。その代わりに社会保障があるのかというと、一切ないのです。(収入がないので)食料が買えない。家賃が払えない。国民健康保険にも加入できません。仮放免者が病院に行く時は全額自己負担になる。仮放免者は、医療費が払えないので我慢する。どんどん我慢して、症状が悪化して、最後に緊急搬送される。場合によっては亡くなってしまう。こうした状況でも、仮放免者は生活保護制度を利用することは一切できないのです」

生活は支援者頼み

今回の「仮放免調査」は郵送で行われ、450件(世帯)に送られて、27カ国、141件の回答があった。調査項目は、「生活・食事状況」や「住居」、また「医療」など6テーマの32項目。回収率は31・3%。2020年末時点で、国内には5781人の仮放免者がいた。その数を基準にして今回の回答者の割合を概算すると、仮放免者全体のわずか2・4%という少人数になるが、彼らの生活状況を推察するには、十分なデータだと言えよう。
まず特徴的なことは、回答者たちは、日本国籍取得や、あるいは「永住権」を認められてもおかしくないほど滞在年数が長いことだ。滞在年数が5年以上の者が84%、10年以上の者も66%を占めている。そして回答者の年齢を見ると、20代から50代が全体の83%を占めている。本来ならば「働ける世代」の人たちである。
生活手段のない「仮放免」者には、生きていくために支えてくれる「支援者」が不可欠であるが、回答者の35%が「支援者はいない」と答えている。
「友人に助けを求めるが、いつも(助けが)得られるわけではなく難しい。友人を訪ねてもほとんどの場合、何も得られないまま帰ることになる。常に自殺願望がある」(50代男性)
「食事の回数」については、「1日1食」が16%、「1日2食」が60%。 「毎日1食しか食べていない。食料が少ないので、代わりに毎日水を飲む。おなかがすかないために」(20代男性)
「家賃の負担」については、「苦しい」「とても苦しい」と答えた人は82%。家賃額は1万円台から4万円台が53%で、約40%の回答者が家賃を滞納している。そしてこの家賃の滞納期間の平均は約7カ月だという。
「現在、4カ月分の家賃が払えていない。食事のためのお金も借りる必要があります。すぐにでも家賃や生活費の援助があると助かります」(40代女性)
「経済的な問題で医療機関を受診できない」という仮放免者は、回答者全体の84%にも及ぶ。そして回答者の79%は「経済的余裕があれば治療したい病気やけががある」と答えている。

末期がんでホームレスも

アミーゴスの大澤さんによれば、難民認定申請をしていた仮放免中のカメルーン人女性が2020年11月、末期がんの病状でホームレスになり、その後、複数の支援者につながったものの、手の施しようがなく翌年1月に死亡する事件が起きているという。
また仮放免者の中には、〝支援者〟から生活費の見返りに、性的関係を要求され続けている女性たちもいるという。
「(性)奴隷と言ってもいいくらいです。本当に悲惨です。仮放免者の皆さんは、生活に困っていらっしゃいます。一言で言えば、生きていけない状況です。現状を知らない人からは、よく『結局、どうにかなるんでしょ』と言われるが、どうにもならない。また『特異な例ばかり挙げてるんでしょ』と言われますが、そうではない。これが日常的に起きていることを証明するために、仮放免者の生活実態調査をしたわけです」(大澤さん)
つまり、食料の確保も、住居の確保も極めて困難。家賃も滞納が続く。電気・ガス・光熱費も滞納。医療費も払えない。靴、服、生理用品、教育費の捻出も極めて難しい。コロナ禍の影響を受けている人も多い。厳しい状況を直接に受けるのが社会的に弱い立場に置かれている人や仮放免者で、「やっと命をつないでいる」という毎日なのだ。
記者会見に出席した、ミャンマーからの難民認定申請者ミョーチョーチョーさん(37)は、次のように話した。ミョーさんは、ミャンマーで迫害を受けている少数民族「ロヒンギャ」だが、これまで日本では、「ロヒンギャ」もほとんど難民認定されていないという〝高い壁〟に悩まされてきた。
「来日して15年になります。ずっと難民認定申請をしていますが、難民として認めてもらえず、2013年から『仮放免』になりました。仕事もできないし、病気になっても病院にも行けない。仮放免者が働いたとしたら、入管施設に収容されてしまいます。今までいろんな人に頭を下げて、助けてもらって、生きてきました。私たちは難民です。日本に保護を求めてきています。どうか日本社会に溶け込むことができ、まじめに働くことができるように、また健康保険にもちゃんと入れるようにビザを出してほしいです。仕事をして、家族の面倒を見たい。他の人のことも助けたい。日本の皆さん、どうか仮放免制度をなくしてください」
ミョーさんの父親は、先月6日にミャンマーで病死した。ミョーさんには収入がないため、父親の病状が分かっていながらも、治療費を送れなかった。「早死にさせてしまった」と、ミョーさんが泣き出す場面もあった。
アミーゴスの大澤さんは、一番大事なことは仮放免者に「就労許可を出すこと」だと、こう強調する。
「今回の調査で明らかになったように、働くことができれば、どうにかなる人はたくさんいる。ですから、就労許可を出すことが、仮放免者の命と生活を守る上で、効果的、かつ合理的な解決法だと考えています」
日本政府は現在、ウクライナから日本に来た避難民に対して手厚い保護を行っているが、彼らについてはあくまで「避難民」で、「難民」とは違うのだという姿勢を崩していない。今回は特例の人道支援であるが、もし、ウクライナとロシアの停戦合意が成立した場合、日本政府はウクライナからの避難民に帰国を促すのだろうか。
そうした場合には、ウクライナ人避難民が、日本で難民認定申請をしても、「難民」として認められないことは十分に考えられる。
ウクライナ人避難民も入管施設に長期収容されるのか、または現在苦しんでいる仮放免者と同じような生活を強いられるのか。〝人道支援の本音〟が見えてくる。
次回は「仮放免調査」結果を踏まえた「提言」の内容。

北関東医療相談会が実施した「仮放免者生活実態調査」に関する記者会見(厚生労働省内)

「仮放免」生活の苦しさを訴える少数民族ロヒンギャのミョーチョーチョーさん

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