60 「難民鎖国」生み出す根本原因
(カトリック新聞 2022年5月8日号掲載)
日本政府は「非正規滞在の外国人」の個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。シリーズ第60回は、「難民」とはどういう人なのか再確認する。
ウクライナからの戦争避難民救援を機に日本政府が新設を計画している日本政府流の「補完的保護」制度(俗称「準難民」制度)は、マスメディアでも「肯定的」に取り上げられているが、実はこの制度には、大きな「落とし穴」と、隠された〝狙い〟があると、「入管を変える!弁護士ネットワーク」は4月20日、東京都内で緊急の記者勉強会を開催した。
1年ぶりに浮上した「準難民」制度案とは何か。「準難民」制度の中身を見る前に、まず「難民」とはどんな人のことを指すのか、その定義を確認する。同ネットワーク共同代表の駒井(こまい)知会(ちえ)弁護士はこう説明した。
そもそも難民条約に基づく「難民」とは、以下の四つの条件を満たした者を指す。
①「五つの理由」=(1)人種(2)宗教(3)国籍(4)特定の社会的集団の構成員、または(5)政治的意見に基づいて迫害を受けている人。
②「迫害要件」=迫害を受けることについて「十分に理由のある」恐怖を有すること。
③「国家的保護の要因」=国籍国の保護を受けられないこと。
④「国外要件」=国籍国の外にいること。
この①の「五つの理由」の具体例としては、特定宗教から他の宗教に改宗すると死刑になる国などでの「宗教」を理由にした迫害、また独裁国家で民主化運動に参加して命を狙われているという「政治的意見に基づく迫害」などが含まれる。
では連日ニュースになるウクライナの避難民は「難民」なのか?
①の「五つの理由」の中に、戦争・紛争・災害などは入っていない。ということは「戦争避難民」を「難民」に認定することはできないということになる。
テレビなどで、日本におけるウクライナからの「戦争避難民」受け入れのニュースが報道されているため、日本政府がウクライナ避難民を「難民」として受け入れているかのような印象を持っている人は多数いると思われるが、実は「難民」として受け入れているのではない。あくまで一時的かつ限定的な特別措置として、日本での滞在を許可しているというだけなのである。
日本政府が「難民」と「避難民」をあえて使い分けしている意味がそこにある。
ウクライナの避難民は日本にいる〝1年間〟に限って在留資格も得られて、働くこともできるが、それ以降は、政府の〝さじ加減〟でどうなるか分からないという限定的なものだ。
もし、ウクライナ避難民が日本での永住・定住を望み、継続的な保護を求めるという場合には、彼らは難民認定申請をしなければならない。
そこで日本政府が持ち出してきたのが、俗称「準難民」制度である。これは昨年廃案になった「改定入管法」(政府案)の中の一つだが、これについては紙面の都合上、次回紹介する。
有名人だけ「難民」に
さて、欧米先進諸国などと比べて日本の難民認定率が著しく低いことは本連載でも再三指摘してきた。その理由は、②の「迫害要件」について日本独特の解釈があるからだとされる。例えば、トルコでクルド人が迫害されている場合、難民条約に加入している他の先進諸国は、情勢に照らし合わせて命の危険があるクルド人を難民として保護している。しかし日本の場合は、その個人が突出して命を狙われていない限り「難民」ではないとしている。
分かりやすく言えば、「ミャンマーのアウンサンスーチーさん級の〝有名人〟しか、日本では『難民』として認定されない」と同ネットワーク事務局長の高橋済(わたる)弁護士は指摘する。
日本が「難民鎖国」となっているのは、難民認定申請中の個人がどれだけ「危ない状況」なのかを証明する客観的証拠が求められ、かつ自分が政府等から「殊更にターゲット」とされていないといけないからなのである。